研究概要 |
中期中新世初期(約1700-1600万年前)の温暖期には日本列島の大部分が熱帯~亜熱帯海洋気候であったとする考えが定説となっている.その根拠となっているのはビカリアなどの特徴的な南方系化石の分布であるが,一方でこれとは矛盾する証撚も存存する.本研究では,貝類化石の古生物学的・地球化学的解析から,中期中新世温暖期における西太平洋低-高緯度沿岸域の古水淵変動と貝類化石相の比較を行い,海洋古気候と海洋古生物地理区の再評価を行うことを目的としている. 本年度はフィリピン・ネグロス島で野外調杳を行い,試料標取を行った.その結果,2つの中新世貝類化石を含む層準を新たに発見し,下位層準にはテチス系要素であるカンムリボラ科腹足類Melongena lainei,上位層準にはインド-西太平洋要素であるフトヘナタリ科腹足類Vicarva callosaがそれぞれ含まれていることを確認した.これらはいずれも日本の中期中新世温暖期に産出する種と同種ないし近縁な種であるが,いずれの貝類相とも日本の中期中新世沮暖期のそれとは大きく異なっているが判明した.現在,研究協力者とともに微化石による年代決定を進めるとともに貝類化石相の分析を進めている. 化石二枚貝殻による古水温推定の研究では,これまでに採取済みである東北日本(門ノ沢層)産試料のXRD分析を行い,アラゴナイトが保存されていることを確認した.これにより酸素・炭素安定同位体比分析が可能であることが判明した.日本の中期中新世温暖期の地層でアラゴナイトが保存されたカガミガイ類化石が産出するのは非常に稀であり,分析試料として畳重である.
|