集積後の地球は深いマグマオーシャンに覆われていたとされる。その後の、地球冷却に伴うマグマオーシャンの結晶化による化学分化の理解、また近年示唆されているマントル最下部における融解を理解する上で、マントル物質の融解相関係は最も重要な情報である。そこで、代表的なマントル物質である、橄欖岩と中央海嶺玄武岩(MORB)についての、超高圧下における融解実験を行った。実験はレーザー加熱ダイアモンドセルを用いて、136万気圧(核マントル境界の圧力)まで行った。実験回収試料を薄膜試料作製装置イオンスライサで研磨し、電界放出型電子線プローブマイクロアナライザー(FE-EPMA)で化学分析を行った。橄欖岩、中央海嶺玄武岩の両出発物質において、融解に特徴的な組織を観察した。この結果から、各実験圧力条件における融解相関係を決定した。140万気圧における観覧岩の晶出順序は、温度の減少に伴い、マグネシウムペロフスカイト、カルシウムペロフスカイト、フェロペリクレースであった。マグマオーシャンから最初に結晶化する鉱物がペロフスカイトであることが明らかになった。また、部分溶融液とそれに接するリキダス相(マグネシウムペロフスカイト)の間の元素分配を決定した。特に、鉄の分配については明らかな圧力依存性が見られた。メルトは圧力とともに鉄に富み、ペロフスカイトは鉄に枯渇していく。鉄の分配は、両相の密度差をコントロールするパラメーターであり、本研究の結果は深部マントル条件におけるメルトは周囲の岩石よりも密度が大きいことを定性的に示している。地震波観測によると、マントルの底は融解しており、マグマの存在が示唆されている。本研究では、これを強く支持する結果が得られた。
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