研究概要 |
マグマにおける相平衡や元素分配は,結晶とシリケイトメルトの熱力学的性質に基づいて理解することができる現象である.もしも両者の熱力学特性(ギブスエネルギー,G)が温度,圧力,組成の関数として既知であれば,地球深部における部分融解や結晶分化作用を数値計算でシミュレートすることができる.しかしながら,メルトGの組成依存性に関わる混合のギブスエネルギー(Gmix)については,高温下で直接的に測定するための決定的な方法がなく,これまでに定量測定された値も限られている.そこで本研究では,起電力測定法により(100-x-y)SiO_2-xRO-yNa_2O (x=5-22,y=12-30mo1%,R=Ca,Mg,Sr,Ba)組成のメルトに対するNa2O活量を1000℃から1300℃の範囲で求め,その温度,組成に対する変化からメルトの混合エントロピーと混合エンタルピーの組成依存性を推定し,メルトの熱力学混合特性について考察した. メルトのNa20活量は温度が一定であるとき,RO/SiO2比およびNa2Oが増加するほど増加し,その増加率はROとNa2Oに富むほど大きくなった.メルトにおける非架橋酸素が増加するにつれて原子配置や構造の自由度が増加することが混合エンタルピーの組成変化としても現れているものと考えられる.温度とモル比の割合が一定であるとき,R=Ba>Sr>Ca>Mgの順序でNa2O活量が増加した.このことは,アルカリ土類元素と酸素イオンの結合力が弱くなるほど,Naイオンの自由度が増加することを示唆している.また,y=30においてはROが増加するほどNa2O活量の負の温度依存性が顕著になり,メルトの混合エントロピーに大きな組成変化が生ずることが示唆された.このようにして,シリケイトメルトが有する熱力学混合特性の組成変化を高温で実測し,化学結合やメルト構造と関連づけて考察をすることができた.
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