本研究では新しい化学指標を用いた先カンブリア時代の微化石分類を行うことを目的とし、顕微赤外分光法を用いた先カンブリア時代微化石と現生微生物の分析を行った。これまでに、21種の現生原核生物(細菌12種・古細菌9種)と4種の現生真核微生物の顕微赤外分光分析を行った。試料は、生細胞・固定細胞・固定染色細胞・抽出脂質を用いた。その結果、全ての分析試料から本研究で着目する脂肪族炭化水素(CH_2結合とCH_3結合)が検出された。各試料の赤外吸収スペクトルから脂肪族炭化水素(CH_2とCH_3結合)の吸収強度比(以下R_<3/2>値)を求めた。その結果から、次のことが明らかになった。1、細菌、古細菌、真核微生物の細胞、抽出脂質のR_<3/2>値はそれぞれドメインに固有である。その大小関係は、細胞では古細菌>細菌>真核微生物、抽出脂質では古細菌>真核微生物>細菌の順であった。2、固定、染色した後も細菌細胞、古細菌細胞、真核微生物細胞のR_<3/2>値は系統的変化を示さない。すなわち、固定染色した細胞に対してもR_<3/2>値によりドメインを識別することが可能と期待される。しかしながら、細菌と真核微生物の細胞、抽出脂質のR_<3/2>値の差はどちらも小さいため、環境中の生物試料においてR_<3/2>値のみで3つのドメインを識別することは難しいかもしれない。以上の結果は、本指標が現生の環境原核生物生態にも適用可能であることを示唆する。化石微生物については、南中国の瓮安地域から~580Maの胚化石を含む岩石試料の顕微赤外分光分析を開始した。薄片の顕微鏡観察により確認された2種類の胚化石と2種類の藻類化石の分析を進めているところである。
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