新しい化学指標による先カンブリア時代の微化石分類を行うことを目的とし、先カンブリア時代微化石の顕微赤外分光分析を行った。その結果、南中国の貧安地域から採取した約5.8億年前の胚化石と藻類化石から、脂肪族炭化水素(CH2結合とCH3結合)と芳香族C=Cが検出された。そこで、各化石個体の赤外吸収スペクトルから、脂肪族炭化水素CH2とCH3結合の吸収強度比(以下R3/2値)と、脂肪族炭化水素CH2と芳香族C=Cの吸収強度比(以下RCC/2値)を求めた。結果は次の通りである。1.形態的に同一でも、異なるR3/2値を示す胚化石がある。2.同様に、形態的に同一でも、異なるRCC/2値を示す胚化石がある。3.予察的に求まった藻類化石のR3/2値は、現生藻類脂質のR3/2値に類似する。以上の結果は、瓮安地域の胚化石が、形態的に類似していても、組成的には2種類以上に区別されることを示唆する。また、同一の岩石試料中で熱変質の程度が異なるか調べるため、顕微ラマン分光法により炭質物の熟成度を評価した。その結果、分析に用いた岩石試料中の炭質物は同程度の熱熟成度を示すことが分かった。つまり、赤外スペクトルで観察された化石個体ごとの組成の違いが続成過程等での変質によって生じたと考えられる証拠は得られなかった。以上のことから、瓮安地域の胚化石はこれまで形態的特徴によって決定されてきた分類以上に多様な生物を起源とする可能性がある。今後、微化石に対応する現生微生物の分析を詳細に行い、微化石から得られた化学指標の意義を考察することで、微化石の起源がより具体的に決定されることが期待される。
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