研究課題
これまでの惑星物理探査により、木星や土星などのガス惑星を周るいくつかの氷衛星の氷地殻下に、内部海が存在することがわかってきたが、内部海の化学的情報は全く得られてこなかった。しかし、ごく最近の土星の衛星エンセラダスの内部海から噴出するジェットの発見により、その化学的情報が、直接探査や観測によってもたらされようとしている。本研究では、エンセラダス内部海における海底熱水活動の有無とそれが起っていた時期を明らかにする目的のもと、内部海環境を模擬した熱水反応実験を行い、その結果とジェット内の有機分子の化学組成パターンとの比較を行う。最終年度は、温度や出発物質の化学組成をパラメタとして反応生成物を調べる実験を系統的に行った。さらに得られた実験結果に対して、熱力学平衡計算モデルを用いて、その結果の解釈や、化学反応におけるどの素過程が全体の反応を決定する役割を果たしているのかを調べた。その結果、エンセラダス内部のような高いアンモニア、二酸化炭素濃度条件下においては、鉱物と水との反応により生成する水素が、反応全体の酸化還元状態を決定していることがわかった。そのような条件下では、出発物質であるアンモニアの分解は起きず、二酸化炭素は炭酸塩として固定されることがわかった。さらに、本研究結果とカッシーニ探査機による観測結果を比較したところ、エンセラダス内部では300℃程度の熱水反応が起きている場合の生成物と観測結果が良く一致した。これらのことから、エンセラダス内部では、生命を育むような熱水環境が存在している可能性が高いことが示唆される。
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