プラズマが非一様性をもつとき、様々な不安定性が発生する。特に構造の崩壊をもたらすような大規模かつ爆発的な不安定性は、学術的に興味を引く対象であると同時に、磁場閉じ込めプラズマでは回避すべき現象でもある。実際に磁気リコネクション(磁力線のつなぎ換え)を介して、磁気エネルギーが運動エネルギーへと爆発的に変換される不安定性は、例えば太陽フレアや磁気圏サブストームなどの自然現象においても観測されている。しかし、なぜこれほどまでに速い磁気リコネクションが起こるのかは、理論的には未だ解決には至っていない。 理論解析が難しい要因として、これがマルチスケール(異なるスケール間の相互作用)問題であることが挙げられる。磁気リコネクションが起きるのは空間的にごく一部の非常に小さな領域であるが、そこでは散逸効果や微視的効果が支配的に働き、結果として領域全体の運動にまで大きく影響する。この問題を支配方程式でみると「特異摂動項」が存在し、解析する際には通常の摂動展開法が適用できない(摂動展開が収束しない)という困難がある。既存の漸近接続法や境界層理論を用いても、非線形ダイナミクスまで解析するのは至難の業である。 本年度は、このマルチスケール問題に焦点を合て、新しいハミルトン力学的な解析手法の構築を実施した。具体的には、電流体力磁学(MHD)方程式に「電子慣性効果」と呼ばれる微視的効果を加えた拡張MHDモデルにおいて、磁気リコネクションが爆発的に起こるメカニズムを解析的に明らかにした。具体的には、この無限自由度ハミルトン力学系の変分原理を定式化し、ポテンシャルエネルギーに相当する汎関数が急勾配で減少することを示した。これは物が高い所から低い所へ落ちるのと同じ摂理であり、ポテンシャル関数の減少具合(勾配)が増加していくことから、爆発的な運動に至ることを初めて導いた。
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