金属/分子/金属接合の電気・光学特性の解明は、分子エレクトロニクスの観点から不可欠である。本研究では、面方位を規制した単結晶金属電極/自己組織化単分子膜/金属ナノ粒子からなる構造制御された金属ナノギャップ構造を構築し、その電気・光学特性を実験的に明らかにすることを目的とした。金属間距離が非常に近接した領域において、ギャップモードプラズモン共鳴が量子的トンネル効果の影響を受けることを実験的に実証し、分子コンダクタンスとの相関を調べることで、界面電子構造とナノ物性の本質に迫ることを目指して実験を行った。単結晶金属面を利用する本研究において、金属間ギャップがオングストロームオーダーで制御され、さらに金属-分子界面構造も原子・分子レベルで構造規制されていることで、プラズモン共鳴に対する量子効果の寄与を実証できるものと期待される。平成22年度は、自己組織化単分子膜としてベンゼンチオールの高配向単分子膜を用い、単結晶金基板の面方位を様々に変えて、単結晶金基板/自己組織化単分子膜/金ナノ粒子構造を構築し、その表面増強ラマン散乱測定を試みた。この結果、面方位によってスペクトル形状と強度の両方が変化し、両者の傾向には強い相関関係があることを見出した。この原因が界面電子状態の違いを反映した結果であることを確認し、金属/分子/金属接合の電気・光特性に対して界面構造が大きな影響を与えることを初めて実証した。また、基板金属の種類を金・白金・パラジウムと変更して同様の検討を:行い、基板金属のdバンド電子構造の違いが分子の吸着構造に大きな影響を与えることを表面増強ラマン散乱によって確認した。更に、自己組織化単分子膜を構成する分子の鎖長と金ナノ粒子の直径を系統的に変化させて表面増強ラヤン測定を行い、量子効果の発現によるスケーリング則の破綻を検証する実験を開始した。
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