金属/分子/金属接合の電気・光学特性の解明は、分子エレクトロニクスの観点から不可欠である。本研究では、面方位を規制した単結晶金属電極/自己組織化単分子膜/金属ナノ粒子からなる構造制御された金属ナノギャップ構造を構築し、その電気・光学特性を実験的に明らかにすることを目的とした。具体的には、金属間距離が非常に近接した領域において、ギャップモードプラズモン共鳴が量子的トンネル効果の影響を受けることを実験的に実証し、分子コンダクタンスとの相関を調べることで、界面電子構造とナノ物性の本質に迫ることを目指して研究を行った。平成23年度は、単結晶金基板/自己組織化単分子膜/金ナノ粒子構造を構築する際に、自己組織化単分子膜を構成するベンゼンチオール誘導体の置換基鎖長を系統的に変え、金属間距離を精密に変化させた金属ナノギャップ構造を構築した。これらの試料からの表面増強ラマン散乱光および近接場発光を観察した結果、金属間距離によってプラズモン共鳴波長及び電場増強度が変化する様子が確認された。更に、使用する金ナノ粒子のサイズを同時に変えて、金属ギャップ間距離と金ナノ粒子径の比をパラメータとして比較した結果、ギャップ間隔1ナノメートル程度の近接領域において異常な共鳴波長シフトが確認された。この結果は、量子効果の発現、つまり金属ギャップ間での電子トンネル効果による古典的なスケーリング則の破綻を示唆するものである。金属間ギャップがオングストロームオーダーで制御され、さらに金属-分子界面構造も原子・分子レベルで構造規制された精密なナノギャップ構造を用いることで、プラズモン共鳴に対する量子効果の寄与を実証することに成功したといえる。
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