研究概要 |
本研究では、地球科学分野で議論となっている「ミッシングキセノンの謎」を解く鍵として、希ガスが地球内部で化合物を作って存在しているという描像を提案し、高精度な量子化学計算によりその仮説を理論的に実証しようという試みである。22年度は、第10族金属のモノカルボニル分子(NiCO,PdCO,PtCO)とAr原子の相互作用に着目した。これらの錯体はいずれも触媒反応で重要な役割を果たす分子であるが、振動数については気相条件での精密分光は困難であり、希ガスを用いたマトリックス単離法により測定されている。PdCO,PtCOについては変角振動数の実験値はDFT計算で得られる値の約2倍であり、単にAr原子が結合することによる振動数シフトのみでは説明できない開きがあった。実験では基音ではなく倍音が測定されたとも考えられるが、基音が観測されずに強度の弱い倍音のみが観測される事は説明がつかない。希ガス錯体Ar-PdCOおよびAr-PtCO分子について、QCISD(T)法により、構造、振動数、結合エネルギーを求めた。Pt及びPd原子の基底関数は、土屋らの相対論用基底系を縮約し、関谷らの相関関数を加えて用いた。PdCO,PtCOに対して3次元ポテンシャル曲面を作成し、非調和効果を考慮した振動回転準位を求めた。計算の結果、基音は調和振動数に比較し伸縮振動で10~30cm^<-1>、変角振動で5cm^<-1>程度小さい値を示した。Ar原子とPdCO,PtCOとの結合エネルギーは5.3及び8.2kcal/molであり、MCO変角振動数はArが結合することにより約10%青方遷移する。変角振動数の基音の実験値は、Ar-MCOの基音の約2倍であり、実験で測定されているのはAr-MCOの倍音であることが示唆された。
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