研究概要 |
重水素置換された水と空気界面における分子(配向)構造を,分子動力学シミュレーションによる和周波スペクトルの計算により明らかにした.この研究の意義としては,この問題が水という地球上で最も基本的な物質の界面構造に関わる問題で,今後水溶性界面構造を和周波スペクトルによって明らかにしていく上で重要な科学的知見が求められる点にある.本研究の成果を礎に,水溶性エアロゾル界面構造の研究が進展し,大気反応モデル構築の強力な証拠を提供すると考えている. 実験で報告された和周波スペクトルは,重水素化されている場合とされていない場合で,特に水のOH伸縮運動の水素結合領域の振動バンドが変化することが報告された.実験家によるスペクトルの帰属は様々であり,フェルミ共鳴を含めた分子内カップリングによる効果や分子間カップリングによる影響が考えられていた.この問題に対して,我々は水素と重水素を実験条件と合うように分子動力学シミュレーションを行い,実験のスペクトルを再現することに成功した.本研究の成果によれば,重水素化による水素結合領域のスペクトル変化の影響は,主に分子間カップリングによるものであることが分かった.しかし一方で,分子内カップリングによる影響も一部含まれていることが分かった.和周波スペクトルに分子間カップリングの影響が強く表れるという事実は,和周波スペクトルの解釈上大変重要な知見であり,多くの実験家に大きなインパクトを与えると思われる.
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