研究概要 |
本年度は,硫酸水溶液表面の構造(イオン分布)と和周波スペクトルの関係について,低濃度領域から大気化学で重要となる高濃度領域にいたるまで明らかにした.硫酸水溶液界面は,大気中の水溶性エアロゾル界面が担う大気化学反応過程において重要な反応場であり,本研究も長い間このテーマについて取り組んできた.本年度は,このテーマについての論文が2本出版されたという意味で,成果が出た年度であったと言える.硫酸は,バルク溶液中で二段階解離することは良く知られているが,界面での濃度がバルクと同程度なのか全く異なるのかは明らかではなかった.界面においてはSO_4^<2->のような2価のアニオンは表面よりもむしろバルクで安定であり,HSO_4^-やH_2SO_4のような分子は比較的界面で安定に存在できることは知られており,界面での解離の状態あるいはイオン分布を知ることは,そこでの反応を理解する上で重要であることは容易に想像されるであろう.本研究の成果により,界面での解離はかなり抑制されることが分かった.特に大気化学で重要となる濃度の硫酸水溶液界面では,バルクと比較してSO_4^<2->よりもむしろHSO_4^-が多く存在していることが分かった.イオンが比較的表面に存在することにより,N_2O_5の加水分解反応はエアロゾルの硫酸濃度によって大きく影響を受けることが明らかとなった.この成果は,今後,大気反応をモデル化する上で重要な知見を与えたといえる.また,本研究が与えたもうひとつのインパクトは,酸解離という分子シミュレーションにとっての難題に対して,実験で得られる界面選択的な和周波スペクトルをよく再現するように古典モデルを用いてイオン分布を調整し,界面での酸解離の状態を知ることができたという点にある.
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