本年度は、入射光の偏光方向や、STM測定時のバイアス電圧やトンネル電流の値を系統的に変化させた測定条件でギャップモードSTM-TERSを行い、ラマンスペクトルの測定や、STMのトポ像測定時に同時にラマンシグナルを取得するラマンマッピング(トポ像とともにトポ像のように各位置でのラマンシグナルの強度を画像化する)を行った。その結果種々の条件でラマンスペクトルおよび特徴的な発光スペクトルが観測された。STM探針が試料に対して45度傾いた配置では、試料に平行な2つの偏光方向を比較すると探針に平行な偏光方向でラマンシグナルがより大きくなることがわかった。またバイアス電圧を大きくするとラマンシグナルは減少し続けるが、発光は減少した後に再び増大した。このためラマンシグナルの観測には小さいバイアス電圧が適していることがわかった。バイアス電圧によりラマンシグナルが減少する原因として、試料と探針の間に表面吸着水が存在しているために試料-探針間の距離がバイアス電圧の増加によって大きく離れることが示唆された。発光スペクトルは励起光の波長によらず同様に観測され、また試料の形状(金ナノ粒子および平滑金基板)あるいは表面の吸着分子種やその有無の影響もほとんど受けなかった。このことから観測された発光は金に由来することがわかった。発光が探針毎に異なることや、探針に金クラスターを吸着させた実験結果などから、観測された発光は金探針作製時に探針表面に自然発生する金クラスター由来であることが示唆された。
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