研究概要 |
今年度はII-VI型半導体としてナノエレクトロニクス分野での応用が期待されている酸化亜鉛(ZnO)の安定ユニット探索を目的として,ZnOクラスター,(ZnO)_n^+の構造の特定とサイズ変化について検討した。特に,イオン移動度分析法を用いて得られた3種類の異性体系列について換算移動度のサイズ依存性を決定し,移動度計算プログラム:mobcalを用いたシミュレーションによるサイズ依存性の結果との比較から,(ZnO)_n^+ではサイズ増加とともに(A)、直線・ジグザグ構造,(B)環状構造,(C)球状構造のように変遷すると特定した。 一方で,クラスターの構造の違いによる安定性を評価するため,イオン移動度分析法を用いて分離した異性体ごとの酸化反応性についても検討を進めた。酸化反応性については炭素クラスターを対象として検討した。その結果,直線構造が環状構造と比較して高い反応速度定数を示すことを明らかにした。しかし,直線構造であっても炭素8量体の場合には反応速度定数が非常に小さくなることを見出し,反応性低下の原因について理論化学計算も加えて検討した。さらに,反応速度定数の温度依存性についても測定し,直線異性体に対する酸化反応の活性化障壁について議論した。 また,測定対象の範囲を広げるため他の遷移金属としてチタン試料棒を用い,ヘリウム-酸素(10%)混合気体をキャリアガスとしたレーザー蒸発法によって,酸化チタンクラスターの生成・異性体分離についても検討を行った。これと並行して,実用的な材料の入手しやすい形態である粉末を試料とした実験も可能にするため,粉末試料の圧縮成型によるサンプル作成装置を設計製作した。この装置によって,遷移金属酸化物の試料に加えて,ハロゲン化アルカリ金属の粉末を用いたサンプルの試作を進めた。そして,実際に直径6mmの試料棒を作成してレーザー蒸発法を適用し,ハロゲン化アルカリクラスターの生成・異性体分離実験を可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,遷移金属複合クラスターの安定クラスターユニットの探索を目的としており,異性体のサイズ依存性,および共存異性体の分離に加えて,分離された異性体の解離しやすさや化学反応性の評価を通じて,安定ユニット探索を進めている。現在,(ZnO)_n^+異性体系列の生成と構造の特定を達球するとともに,炭素クラスターを対象とした解離,ならびに化学反応性の異性体依存性も見出していることから,おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ZnO以外の複合クラスターの検討を進めるため,チタンを始めとする他の遷移金属をサンプルとした実験を進め凱また,昨年度までに製作してきた粉末試料の圧縮成型器も併用し,遷移金属酸化物や窒化物といった工業的に実用化されている材料についても,クラスターイオンの構造変化のサイズ依存性について議論する。 また,炭素クラスターを対象として検討してきた解離および化学反応性の異性体依存性を(ZnO)_n^+クラスターに適用していく。ドリフトセルによる異性体分離後はイオン強度が減少し,解離分光に十分な強度が得られないことも想牢されるが,この場合には負イオンクラスターの窺測も行って,低強度であっても積算によって比較的議論が可能な分離異性体の光電子スペクトルの測定へと展開する予定である。
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