今年度はナノエレクトロニクス分野での応用が期待されている酸化亜鉛(ZnO)や,触媒を始めとする機能性材料としても利用されるCoOやVOxといった系に対して,安定ユニット探索を目的として検討した。特に(ZnO)n+では,イオン移動度分析法を用いて得られた複数の異性体系列について,量子化学計算による(ZnO)n+の構造計算,ならびに移動度計算プログラム: mobcalを用いて詳細に衝突断面積を検討し,これまでに見積もってきた(A)ジグザグ,(B)環状,(C)球状構造の他に,多環構造の存在が帰属できた。また,多環構造をアニールすることによってコンパクトな球状構造へと構造変化することも明らかにした。さらに(CoO)n+では,n = 5-6で環状から立体構造へと変化することを示した。 一方で,光解離による安定ユニット探索を30量体前後の炭素およびケイ素クラスターの異性体に適用した。この領域では,炭素では環状と中空かご構造が,ケイ素では偏長と球状構造が共存する。これらの異性体を分離して光解離を適用したところ,炭素クラスターでは,異性体によって解離生成物の質量分布に大きな違いが観測された。一方ケイ素クラスターでは,異なる異性体からの解離生成物が類似していた。この違いは,励起後の異性化が起こりやすいかどうかに起因すると結論付けた。 さらに化学反応性の異性体依存性を,炭素クラスターの直線および環状構造に対して検討した。結果として,直線構造の方が一桁以上反応速度定数が大きく,さらに奇数が偶数よりも反応性が高いことを見出した。従来は,異性体共存の影響で詳細な検討が困難だったが,今回,直線構造が奇数の時に末端に電子軌道が広がる2Σ状態となることと対応すると結論することができた。 そして,異性体分離法の後に光電子分光装置を導入した。まずは銅原子負イオン,そしてSi4-の光電子スペクトルを測定した。
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