本研究の最終目的は、生体分子中の硫黄原子の動的挙動観測を目指した新規実験手法として、硫黄33固体核磁気共鳴法を開発することである。含流タンパク質は体内存在量が0.25%であり、例えば、タンパク質のシステイン残基のチオール基はシステインプロテアーゼなどの活性中心として機能する。またS-S結合が形成されタンパク質の高次構造を形成および維持する上でも重要である。硫黄33化学遮蔽・電場勾配テンソルを解析し硫黄周辺の詳しい電子・分子情報を取得することができれば、病気発症のメカニズムを解明し将来の創薬や製薬事業に貢献することができると期待される。本年度の具体的な研究目標は低分子有機化合物を対象に硫黄33安定同位体を主に有機合成の手法を用いて部分的に標識し、質量分析法を用いて安定同位体標識率を評価することである。アミノ酸や低分子有機化合物を対象にした標識方法に関する文献調査を行い、数例の合成ルートを選別し合成手法を提案した。スモールスケール(数ミリグラム)で種々の合成実験を実施したが、残念ながら、文献値(理論値)と大きく異なることが判明した。原因を調査していたが、低標識率の理由は不明のままである。現在、新規合成ルートを含めて、標識方法の開発および確立を目指している。数十ミリグラム程度の硫黄33標識物が完成すれば、NMR測定標準物質(四極子核パルス長の設定)として活用し、今後の高磁場固体NMR装置を用いた半整数四極子核固体NMR測定を実施する予定である。
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