研究概要 |
放射性廃棄物の処理方法として,現在,地層処分システムが運用されている.地層処分システムは,地層中の放射性核種の移行速度が十分に遅く,地下水流に沿った放射性核種の拡散が無いことを前提に,放射性核種の安定物質への変換を行うものである.だが,諸外国の環境化学チームにより,この前提は100%満たされておらず,放射性アクチニドを含むコロイドが検出された例も存在することが明らかにされた.蓄積されたアクチニドの漏出を防止し,地球環境に配慮した,安全な放射性廃棄物処理技術を確立するには,選択的にアクチニドを捕捉分離・固定する技術,すなわちアクチニドが形成する化学結合に関する基礎研究が欠かせない.本研究は,申請者が開発を行ってきた高精度量子化学計算理論:相対論的モデル内殻ポテンシャル(MCP)の拡張・応用によりアクチニド化学の本質=電子状態に理論化学の観点から迫る,環境エネルギー分野への寄与を目指す拡張発展的研究である. 研究初年度である,2010年度は,まずアクチニド元素のMCP法の開発とその精度検証に取り組んだ.具体的には,U・Thなど最も頻繁にアクチニド化学の対象となる元素についてMCPを作成し,比較的小さく,実験により分子構造パラメータがよく調べられているUO_2, ThOの電子状態計算にてその精度を検証,よい精度をもったMCPの作成に成功した.続いてUO_2の水和構造解析を目指し,水和錯体[UO_2(H_2O)_n](n=1-5)の構造最適化に取り組んだ,量子化学計算分野では,しばしば錯体の電子状態計算に密度汎関数法が適用される.上記水和錯体について,様々な密度汎関数法およびab intio MP2, CCSD(T)法にて構造最適化を行ったところ,密度汎関数法とab initio法の結果は大きく異なり,ab initio法のみが水和数を再現できることが分かった.
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