研究課題/領域番号 |
22750013
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
梶 貴博 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所・ナノICT研究室, 専攻研究員 (40573134)
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キーワード | 1分子計測(SMD) / 共焦点顕微鏡 / 生物物理 / 蛋白質 |
研究概要 |
本年度の研究では、生体分子の閉じ込めに必要なナノ空間をもち、さらにレーザー温度ジャンプ測定法に必要な近赤外レーザーや励起レーザーの光強度、ならびに生体分子にラベルした蛍光色素間での蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の効率などを高度に制御できる特性をもつ、誘電体の周期的なナノ構造(ナノフォトニック構造)を利用した単一分子蛍光測定を実現するための実験を進めた。前年度に作製手法を提案した五酸化タンタル(屈折率:~2)などの酸化物材料を用いた低バックグラウンド発光のフォトニック結晶基板を用いることで、単一分子の光励起や蛍光の取り出しを高効率化するための実験を行った。石英ガラス基板上に五酸化タンタルの薄膜を作製し、電子ビームリソグラフィーとドライエッチングによる微細加工プロセスにより、フォトニック結晶基板を作製した。基板上に蛍光色素であるペリレンビスイミドを塗布し、顕微鏡対物レンズによりレーザー光を照射、蛍光を観測した。その結果、フォトニック結晶(2次元フォトニック結晶スラブ)基板を用いることで、単一分子の蛍光増強が可能であることを世界にさきがけて示すことに成功した(T.Kaji et al.,J. Phys. Chem. Lett. 2,1651-1656(2011))。また、フォトニック結晶の格子定数を変化させることで、様々な波長の光(可視から近赤外光など)を効率的に増強できることを示した。本結果は、生体分子の折りたたみ過程など測定に重要である単一分子蛍光測定をこれまでより高感度化するだけでなく、ゲノム解析やプロテオーム解析、蛍光免疫染色に用いられる蛍光色素の光励起や蛍光取り出しを効率化できる可能性を示したものであり、バイオ研究分野に大きく貢献するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の希薄水溶液や液滴中における単一分子蛍光測定の手法に比べて、本研究で提案するナノフォトニック構造を用いた測定は、単一分子をナノ空間中に閉じ込めた状態で、多波長照射による高効率な蛍光測定や発光制御が可能となる新しい方法である。実際の生体分子系を用いた測定に関しては計画よりやや遅れているが、本方法を世界にさきがけて提案できたことは大きな成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、誘電体の周期的なナノ構造(ナノフォトニック構造)を用いて励起光や発光を制御した状態下での、単一分子からの蛍光を統計的に観測する手法の確立と実際の生体分子系への適用を目指す。さらに、蛍光色素の光吸収に伴う電子励起状態をナノフォトニック構造により制御(長寿命化)することで、生体分子などにラベルした蛍光色素間での蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)効率を制御することを目指す。現在研究室が所有する近赤外レーザーではレーザートラッピングを行うための出力が足りず、また周期的な温度上昇を誘起するための周波数制御が困難であることから、ナノフォトニック構造中を用いることで近赤外光の光強度を増強するなどの代替手段の検討や、FRET効率の制御による生体分子内部の構造変化をプローブする新規な手法の開発を進める。
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