研究課題/領域番号 |
22750015
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
優 乙石 青山学院大学, 理工学部, 助教 (90402544)
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キーワード | 分子クラウディング / 分子動力学 / 蛋白質 / 自由エネルギー / TMAO / 水和 |
研究概要 |
細胞内は水以外の分子が体積の3割ほどを占める非常に込み合った溶液環境(分子クラウディング)である。本研究は、分子クラウディング環境が生体分子の立体構造や機能発現に及ぼす影響を、原子レベルで解明することを目的としている。 当該年度は前年度に引き続き、低分子量クラウディング剤と蛋白質との相互作用を調査した。深海生物が細胞内に多く蓄積する有機低分子:TMAO(trymethylamin N-oxide)をクラウディング剤として用い、濃度2.2M TMAO水溶液中におけるアポミオグロビンの挙動(25ナノ秒)を、分子動力学法によってシミュレーションした。Kirkwood-Buff(KB)積分法1)を改良し、シミュレーションによって得られた水分子およびTMAO分子の位置情報を用いて、タンパク質の純水からTMAO水溶液中への移相自由エネルギー(Transfer Free Energy(TFE))2)を計算する手法を開発した。TFEの理論値は実験値と良い一致を示した。これに加え、KB積分の時空間分解によって、TFEのダイナミクスや3次元的な分布を映像化する手法も開発した。TFEは、総量としては正の値を持つが、タンパク質周囲で均一に分布しているのではなく、溶質表面を塗りつぶすように発生する正のTFE領域(黄)と、球状に点在する負のTFE領域(青)が混在していることが明らかになった。本研究の解析手法によって、低分子クラウディング剤がタンパク質のどのような部位に作用し、それが熱力学的にいかなる影響を溶質に与えているかを、「定量的かつ視覚的に」理解することが可能となった。 1)液体分子の密度揺らぎの積分値から、熱力学量を計算する理論。 2)溶質を、ある溶液相から別の溶液相に移す際に変化する溶質の自由エネルギー。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1~2年目中期で、研究に必要な解析手法および計算プログラムの開発がほぼ完了した。それを用いて、本研究課題の主目的である、分子クラウディング効果の微視的解明に取り組んだのが当該年度である。クラウディング状態を生じる分子は、大きく分けてポリエチレングリコールなどの高分子とアミノ酸やメチルアミン類などの低分子がある。現在まで、低分子による分子クラウディング環境が生体分子の熱力学的安定性に及ぼす影響について、分子レベルの解明が大きく前進した。
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今後の研究の推進方策 |
1:現在までに得られている移相自由エネルギーの3次元分布データをもとに、タンパク質のどのような残基周囲で、移相自由エネルギーが増減しているかをマッピングする。タンパク質表面の幾何学的特性(曲率やキャビティーの形状など)と移相自由エネルギー分布量との相関も調査する。 2:TMAOなどの低分子クラウディング剤に加え、複数のタンパク質やDNA分子による高分子クラウディングにも焦点をあて、より細胞質に近い分子クラウディング環境のモデリングおよび分子動力学シミュレーションを実行する。得られた原子配置情報から、各分子成分の相互作用や分布状態を調査する。
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