研究課題/領域番号 |
22750016
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小林 正人 早稲田大学, 理工学術院, 講師 (40514469)
|
キーワード | 化学物理 / 計算物理 / ナノ材料 / APSG法 / MP-MCPT法 / 静的電子相関 / 摂動論 / 開殻系 |
研究概要 |
量子化学理論では、一電子波動関数(オービタル)から全電子波動関数を構築するのが一般的であるが、本研究では二電子対波動関数(ジェミナル)を基本に用いることで、新しい高精度多配置量子化学計算の理論体系とプログラムを確立することを目的としている。 本年度はまず、ジェミナル量子化学の基本理論となる反対称化強直交ジェミナル積(APSG)法を実用的に計算可能とするために、収束性の改善に敢り組んだ。APSG計算で必要となる自然軌道の最適化の際に、Newton-Raphson法によるHessianを使った収束とDIIS法を組み合わせることで大きく計算コストを削減することに成功した。DIIS法の誤差ベクトルの選び方の相違により2種類の方法を提案したが、特に軌道勾配を誤差ベクトルに用いた方法が良好なパフォーマンスを示すことが確認された。 また、昨年度開発した2つの手法、すなわち(i)APSG波動関数に対する簡便な摂動補正理論(MP-MCPT法)と、(ii)開殻系に拡張したAPSG波動関数を結合し、開殻系も定量的にエネルギーを記述できるジェミナル理論を構築した. 本研究課題では、APSG法を大規模系に適用する際に分割統治(DC)法の活用を考えているが、DC法においても(1)2次Moller-Plesset摂動(MP2)計算の開殻系への拡張、(2)時間依存法及び有限場法を用いた分子超分極率計算法の開発、などの進展があった。さらに、現在一般的となったクラスタ・コンピュータによる大規模計算を効率的に行う手法として、(3)Generalized Distributed Data Interface(GDDI)を用いたDC-MP2法の2段階並列化、も行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノ磁性デバイス材料の実証計算を行うための準備として、理論体系とプログラムが着実に整いつつある、具体的に研究の目的で掲げている3つの理論・プログラム展開のうち、「(1)動的相関の摂動的取り込み」と「(2)開殼系への理論拡張」はほぼ完成し、もうひとつの「(3)並列化と大規模系理論への展開」についても、プログラムの成熟が進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、上述の3つの理論・プログラムを融合し、実用的な計算を可能とする手法を検討する必要がある。当初よりAPSG波動関数が、すでにDC法で用いることの可能な結合クラスター(CC)波動関数と同じ形式で表されることから、DC法との融合は難しくないと目されているので、来年度はまずこの問題に理論的・実践的に取り組む。また、大規模化を行う前にも、小分子の磁性材料に対してAPSG法を用いた応用計算に着手し、理論の信頼性を確認しながら大規模化を推進していく。
|