水素原子の量子性(零点振動・トンネリングなど)は同位体効果など化学的性質に反映される。しかし、通常の「静的な」量子化学計算には原子の量子効果が含まれていないため、大きな構造ゆらぎをもつ水素結合の定量的な構造解析は難しく、実験との詳細な比較が難しいのが現状である。そこで本研究の目的は、原子の量子ゆらぎと温度ゆらぎを厳密に取り扱うことのできる経路積分法を取り入れた ab initio 計算法を提案・確立し、これを用いて水溶液や核酸塩基対などの水素結合性分子集団やその重水素置換体の熱力学的構造ゆらぎや反応性を理論的に明らかにすることである。 本研究では、 ab initio 経路積分法を用いて、水素結合性分子集団における水素移動反応のシミュレーションを行い、トラジェクトリデータから反応機構などを解析した。本研究の目的に沿うために、自由エネルギー計算、実時間ダイナミクス、溶媒効果の取り込み、計算の効率化などを行うためにプログラムを整備・拡張した。次に、並列計算機を用いて、水イオンや核酸塩基対など水素結合性クラスターの ab initio 経路積分シミュレーションを実行し、可視化用コンピュータで分子動力学トラジェクトリのデータ解析を行った。これらの成果を国内外の学会や論文誌に発表した。平成24年度で計画どおり研究がすべて無事完了した。
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