強磁場下の原子・分子が生み出す現象は様々な科学のフィールドから興味を持たれ、その原理的な解明と予測が求められている。特に、宇宙に存在する超強磁場下の原子・分子は、天文学において宇宙の物質組成や天体の進化の過程を調べる上で大変興味深い。本研究では、原子・分子のシュレーディンガー方程式と相対論的ディラック-クーロン方程式の解を正確に求めるために開発されたFree Complement法を基に、これを強磁場下の原子・分子系に適用するための理論・方法論とプログラムの開発を行った。まず、最も単純だが宇宙では最も重要な強磁場下の水素原子に適用した。基底状態と共に多くの励起状態を同時に求め、世界一の精度での精密エネルギーが計算できた。クーロン場とスピン磁気相互作用が競合する磁場強度ではカオス的な挙動が確認された。また、宇宙一の強磁場が存在するマグネター表面上の磁場強度での量子計算を初めて行い、その超精密波動関数が求められた。これほどの強い磁場ではクーロン場の寄与はほとんどなく、ランダウ準位が支配的な状態の無限縮退が確認できた。また、相対論計算も行うことで相対論による軌道の収縮と磁場の影響を調べた。次に、強磁場下の少数電子原子・分子の計算を行った。これらの系では、各電子(原子・分子軌道)の受ける常磁性項と反磁性項の受ける影響や電子相関と磁場の相互作用など、複雑だが理論的に大変興味深い電子状態が確認できた。磁場を強くすると低スピン状態から高スピン状態へ基底状態が変化する系間交差が起こり、その化学的な性質が大きく変化する。そのため、磁場下の高スピン状態の性質を調べることは特に重要である。本研究により、強磁場下の原子・分子の挙動を第一原理的に定量的に調べることができるようになり、今後のより一般原子・分子系に対する磁場下の量子化学の発展に繋げて行きたい。
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