最終年度はアントラセン類縁体の酸化反応による二量化反応を検討した。 前年度、トリイソプロピリルシリルエチニル基を導入したアントラセンの短軸側にヒドロキシ基を導入した後、酸化を行うとシクロファン型の二量体が得られることを明らかにした。今年度はさらに、置換基の大きさの異なるアントラセンを用いて同様の反応を行ったところ、いずれも良好な収率で対応するシクロファンを得た。それぞれの構造はX線結晶構造解析により明らかにし、置換基の立体効果によって分子全体の歪みが大きく変わることが分かった。このように酸化するだけで高い歪みを持つ化合物が得られる結果は希有であり、歪み化合物を簡便に合成できる新たな手法として期待出来る。 次に、ヒドロキシ基をアミノ基に変えて同様に二量化反応が起こるか検討した。DDQを用いて酸化したところ、ピラジン型とピロール型の二量体が高収率で得られることが分かった。さらに、酸またはアルコールの添加によりこれら生成物の比率が制御できることも明らかにした。特に、後者はX線結晶構造解析の結果よりおおきく歪んだヘリセン型の構造を有することが分かった。これをさらにキラル分割し、CDおよび蛍光を測定したところ、低分子有機物質としては大きいg=0.003の値をもつキラル発光特性があることを明らかにした。いずれの成果もドイツ科学会誌に論文を発表し、また、春および秋にある学会において口頭発表することにより成果を公表した。
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