光エネルギーを電気・化学エネルギーへ効率的に変換させるには、長寿命の光誘起電荷分離状態を有する分子システムの構築が重要と考えられる。最近本研究者は常温燐光発光錯であるビピリジン・ジアセチリド白金錯体を三重項光増感部とした分子システムにおいて、白金錯体部の選択励起より1μsを超えるスピン制御された電荷分離状態の高効率発生に成功している。本研究においてはこの電荷分離白金錯体を発展させ、スピン制御された電荷分離の高効率発生法の一般性確立、ならびに太陽電池や光触媒を考慮した分子システムへの展開を目指した。 これまで光増感部として用いていた白金ジアセチリド錯体は長波長部に強い吸収はない。光エネルギーの効率的な利用という観点から、可視光に比較的強い吸収を有する白金ポルフィリン錯体を利用したドナー・アクセプター連結錯体を設計、合成した。この分子システムはベンゾニトリル中で100μs程度の寿命を有する電荷分離状態の発生に成功した。また、有機色素として代表的なボロンジピロメテンを光捕集部および電子アクセプター部として利用した三連結白金錯体の合成し、THF中において数十~数百nsの寿命を有する電荷分離状態の発生に成功した。さらに、ドナー・アクセプター連結分子をビス(ピリジルイミノ)イソインドールを配位子とする白金錯体にペンダント型に連結した分子を合成した。この系はブチロニトリル中で8.9μsの長寿命電荷分離状態が効率的に発生することがわかった。また、時間分解ESRでもスピン相関ラジカル対を観測することに成功した。 さらに、本研究者が開発してきたスピン制御型電荷分離白金錯体を利用した光電変換システムの構築に向けて、硫黄官能基をアクセプター部に導入した系を設計、合成した。目的の錯体の溶液に金電極を浸漬し、単分子膜を形成させたものを電極として用い、光電流が発生することを明らかにした。
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