ホウ素置換基は有機合成化学上有用であるばかりでなく、酸化還元によるπ共役化合物の共役構造制御の為の官能基として利用可能である。初年度である平成22年度、はホウ素上に嵩高い立体保護基を有する中性パラ-ホウ素二置換ベンゼンを合成し、酸化還元挙動を調査した。この化合物は二電子還元により、一重項キノジメタン型の共役構造を有するジアニオン化合物として単離可能であることを見出した。キノジメタン型構造については、X線結晶構造解析および核磁気共鳴分光法によって確認した。このようなベンゼンを主骨格とした例と同様に、4位および4'位にホウ素置換基が置換したビフェニル誘導体においても、二電子還元によって、固体状態においてキノイド型の共役構造が発現することをX線結晶構造解析により明らかにした。以上のように、ホウ素置換基を起点とした、様々なπ共役化合物の共役構造制御を行うための足がかりを得た。また、ホウ素置換π共役化合物の効率的な合成法についても検討し、水素化ホウ素化合物(R_1R_2BH)に対して有機リチウム試薬(R_3Li)を作用させた後、クロロシランで処理することで、簡便に置換ホウ素化合物(R_1R_2R_3B)を合成する反応条件についても確立した。この簡便な置換反応を利用し、多環式共役化合物やヘテロ芳香族化合物など、種々のπ共役化合物にホウ素置換基が導入された化合物を単離した。ホウ素置換基を起点とした、酸化還元による様々な共役化合物の共役構造制御の方法論を確立するための足がかりを得た。
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