ホウ素置換基は有機合成化学上有用であるばかりでなく、酸化還元によるπ共役化合物の共役構造制御の為の官能基として利用可能である。これまでに、ホウ素上に嵩高い立体保護基を有する中性パラ-ホウ素二置換ベンゼンを合成し、酸化還元挙動を調査した。この化合物は二電子還元により、一重項キノジメタン型の共役構造を有するジアニオン化合物として単離可能であることを見出した。キノジメタン型構造については、X線結晶構造解析および核磁気共鳴分光法によって確認した。このようなベンゼンを主骨格とした例と同様に、4位および4'位にホウ素置換基が置換したビフェニル誘導体においても、二電子還元によって、固体状態においてキノイド型の共役構造が発現することをX線結晶構造解析により明らかにした。以上のように、ホウ素置換基を起点とした、様々なπ共役化合物の共役構造制御を行うための足がかりを得た。さらに、ホウ素二置換アレーン誘導体の縮環反応により含ホウ素π共役骨格を形成することを見出し、この反応を利用して、これまで合成が容易ではなかった、機能団を導入した種々の含ホウ素π共役化合物合成に成功した。例えばチエニル基を導入した誘導体では、様々な溶媒中あるいは固体状態で、90%を超える蛍光量子収率を示す。このように、本研究課題では、酸化還元による含ホウ素π共役化合物の共役構造制御に加えて、簡便かつ容易な含ホウ素π共役化合物合成の手法を開拓し、ホウ素の特性を活かした分子創製を行うことに成功した。
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