研究概要 |
初年度の取り組みにより、Fe(1)錯体[FeBr(BPEP)](1)(BPEP=2,6-bis[1-phenyl-2-(2,4,6-tri-tert-butylphenyl)-2-phosphaethenyl]pyridine)は、フェニルジアゾメタンまたはトリメチルシリルジアゾメタンとの反応では、一旦鉄カルベン種が生成し、N-N結合の形式的な切断を繰て、ニトリル錯体[FeBr(RCN)(BPEP)]およびイミン錯体[FeBr(RCH)(BPEP)](R=Ph,SiMe3)が生成することを見出した。本反応は、低原子価鉄錯体に特徴的な反応と言え、さらに詳細を調べるべく、種々の低原子価鉄錯体の合成に取り組んだ。 錯体1はMesMgBrもしくはMes2Mg(TRF)2(Mes=2,4.6-methylphenyl)と室温で速やかに反応し、Fe(I)アリール錯体[FeMes(BPEP)](2)が単一に得られた。X線構造解析により、錯体2は錯体1と同様に、歪んだ三角錐構造であることがわかった。一方、SQUIDにより磁化率を測定すると、高スピン配置を取る錯体1と異なり、錯体2は低スピン配置を取ることがわかった。錯体1はMb2Mg(THF)2との反応では、Me基がボスファアルケンのリン上に転移したFe(0)錯体3およびFe(II)錯体4が混合物として得られた。錯体3および4の構造はX線構造解析により確認した。錯体3及び4の混合物は、1HNMRで幅広なシグナルのみが観察されたことから、これらは高スピン配置を取ることが示唆された。錯体2とArNC(Ar=2.6-methylphenyl)との反応を検討すると、一電子還元が進行し、[Fe(PhNC)2(BPEP')](5)(BPEP'=2-[1-phenyl-2-(2,4,6-tri-tert-butylphenyl)-2-phosphaetheny1]-6-[1-pheny1-2-(2,4,6-tr1.図ethylphenyl)-2-phosphaethenyl]pyridine)が得られた。錯体5は、低スピン配置を取るため、NMRにより同定が可能であった。以上の取り組みにより、高スピン配置および低スピン配置を取るFe(I)、Fe(0)錯体の合成に成功した。 錯体2とトリメチルシリルジアゾメタンとの反応では、1,2.トリメチルシリルエテンが生成した。本反応は、二分子のジァゾメタンからニトリルおよびイミンが生成する錯体1とは大きく異なる。これら反応性の違いは、鉄錯体の電子スピン状態に依存しているものと考えられる。本取り組みでは、BPEPを用いてFe(I)錯体だけでなく、Fe(0)錯体も高スピンおよび低スピン配置を取る錯体3、5の合成に成功したことから、今後鉄錯体の電子スピン状態による反応性の違いを系統的に調査する、礎を築くことができたといえる。
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