研究概要 |
温和な条件での窒素分子の捕捉と活性化による化学変換反応の開発は、現代化学において最も重要な課題の一つである。本研究課題では、キレート型ケイ素配位子が鉄中心に強く電子供与し、かつ強固な骨格を与える性質に注目し、キレート型ケイ素配位子を持つ鉄錯体を用いた窒素分子の捕捉・活性化を達成する。 平成22年度の研究成果として、まず、キレート型ケイ素配位子を持つ鉄錯体の構築と、この錯体による窒素分子の捕捉を行った。キレート型ケイ素配位子として1,2-bis(dimethylsilyl)benzeneを用い、鉄前駆体[Fe(mesityl)_2]_2と、ベンゼン中、窒素雰囲気下で反応させることで、キレート型ケイ素配位子を持つ鉄錯体ユニット2つが窒素分子を捕捉した二核錯体[(η^6-benzene)Fe(Si)_2]_2(μ-N2)(Si)2=dimethylsilylbenzeneを合成することに成功した。同様の反応をトルエン中やメシチレン中で行うことで、鉄上にη^6-tolueneもしくはη^6-mesitylene配位子を持つ類縁体も合成可能であることも併せて見出した。得られた一連の錯体について、IR,Ramanスペクトルの結果、鉄上に電子供与性の強いη^6-arene配位子を持つ錯体において、窒素分子がより強く捕捉されることが分かった。さらに、上述と同様の反応を、disilylbenzeneの骨格内にMe基やOMe基などの電子供与基を導入したキレート型ケイ素配位子を用いて行うことで、より電子供与性の高いキレート型ケイ素配位子を持つ一連の類縁体による窒素分子の捕捉も可能であることも併せて見出した。
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