電極上での機能性分子の配向ならびに結合状態の制御は、電子移動速度・効率に大きな影響を与えるため、高性能な太陽電池、有機EL、FETなどの次世代分子デバイスの構築には極めて重要な課題である。このようなデバイス構築には外場応答速度が速く、かつ大きな構造変化を伴うことなくレドックスを起こす金属錯体が有力候補に挙げられる。申請者は電極に垂直配向可能な構造を有するルテニウム二核錯体を合成し、layer-by-layer法により透明電極上に錯体構造体を構築する研究を本プロジェクトでスタートさせた。本研究では、種々の新規ルテニウムおよびオスミウム二核錯体を合成し、溶液中における基礎物性評価ならびにそれらの薄膜を電極上に作製し放射光施設Spring-8を使用した配向評価および電子輸送能の評価を行うことにより、高性能次世代分子デバイス構築の指針を得ることが重要である。今年度は薄膜の構造評価ならびに異なる2種類の分子間での電子移動評価を行った。特に薄膜の構造評価に関してはデバイス展開において重要な知見が得られた。酸化還元活性なルテニウム二核錯体を、ジルコニウムイオンを介して透明電極ITO上に5層固定した基板のGISAXS(Grazing-Incidence Small-Angle X-ray Scattering)測定をSPring-8のBL40B2にて行った。GISAXSプロファイルの解析結果からout-of-plane方向にd=3.9nmの強いピークが、in-plane方向にd=2.0nmの弱いピークがあることが分かった。このことから作製した錯体積層膜は基板に垂直配向していることが示唆され、特に膜厚が均一に保たれていることが明らかとなった。また、in-plane方向の測定の再現性が低いことから同じ層内における隣り合う錯体間の相互作用は弱いこともわかった。次年度では異なる分子を連結した際の薄膜の構造評価および膜間電子移動についての評価を行う。
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