研究概要 |
ポルフィリンは18π電子系を有する芳香族化合物であり、大きく広がったπ共役系をもつ平面分子である。このような広いπ共役系分子は有機電子デバイス素子としての応用という点で広く研究されている。我々は近年、嵩高い置換基を導入してポルフィリン骨格を歪ませることで、非常に珍しい酸化状態(16π)の非芳香族性ポルフィリン誘導体ORTPP(R=Et,i-Bu)の単離に成功した。そこで本研究では、16πポルフィリンの錯体化学に関する知見を得るために、主としてイソブチル誘導体OiBTPPH2(18π)およびOiBTPP(16π)と様々な典型元素・遷移金属との錯体の合成を検討した。その結果、詳細な構造解析には成功していないものの、18π型ポルフィリンを用いてアンチモンとリンのカチオン錯体[OiBTPP-Pn]^+(Pn=PPh, SbCl)を合成することができた。通常の平面型ポルフィリン(TPPなど)の場合とは異なり、骨格が高度に歪んでいるためか若干不安定であることがわかった。この他にもAu(III)との錯体も合成することができた。また、コバルト(Co(III))、クロム(Cr(III))と16π型OiBTPPとの反応を検討したところ、コバルトの場合には16π型を保ったまま錯形成していることが紫外可視分光法により示唆された。16πポルフィリンを配位子とする錯体は現在までに2例しか知られていない。クロムの場合にも16π型錯体と思われるスペクトルを観測したが、非常に不安定であることがわかった。
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