研究概要 |
光学異性体のマイクロチップ電気泳動(MCE)-質量分析(MS)検出法の開発にあたり,有機ナノ結晶修飾MCEチップの作製を目指して,キラルセレクターとなるシンコナアルカロイド類のナノ結晶化について検討を行った。ナノ結晶の作製においては,再沈殿法とエマルジョン法を比較検討し,シンコニジンの結晶化について最適化を図った。その結果,再沈殿法ではすぐに凝集が進行したのに対し,エマルジョン法では得られた分散液は非常に安定であり,100時間静置しても凝集・沈降は認められなかった。得られた分散液中には直径400~600nmの結晶が観測されたことから,有機ナノ結晶が作製できたことを確認した。そこで得られたナノ結晶の表面固定化について検討を行った。フューズドシリカキャピラリーにカチオン性ポリマーを通液して,表面を正に帯電させた後,負に帯電しているナノ結晶分散液を通液して,ナノ結晶を固定化した。このシンコニジンナノ結晶修飾キャピラリーを用いて,アミノ酸の光学異性体分析を行ったところ,pH5~6の泳動液を用いると良好なキラル分離が達成された。したがって,シンコニジンをナノ結晶化しても,キラル認識能が失われておらず,本手法をマイクロチップに適用することで,キラルMCE-MS分析の高性能化が期待される。 一方,酸化チタンナノ微粒子によるリン酸化ペプチドのオンライン濃縮法の開発においては,濃縮条件の最適化を図った。その結果,pH11の泳動液を満たしたキャピラリーに対し,pH10の酸化チタンナノ微粒子分散液を部分的に注入した後,pH2の試料溶液を長いプラグとして注入したときに高効率な濃縮が得られることがわかった。そこで,リン酸化ペプチドのモデル試料としてアデノシン三リン酸(ATP)を用い,濃縮を行ったところ,10~40倍の高感度化を達成した。本手法をMCE-MSに応用することで,高感度かつ高性能なリン酸化ペプチド分析システムの構築が期待される。
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