研究概要 |
本研究は,ポンプやバルブなどの周辺機器も含めて真にポータブルな表面プラズモン共鳴(SPR)センサを開発することを目的として,コンパクトディスク(CD)上に作製した多数のマイクロチャネルに,遠心力を利用して試薬と試料を導入し,試料中の各成分をマイクロチャネル内壁に固定した種々のレセプタータンパク質との相互作用により分離した後,ナノアレー構造体を利用するSPRセンサにより検出する,新規SPRセンサを開発するものである。 本年度は,ナノビーズを用いて安価に規則配列ナノ構造体を作製する方法を検討するとともに,これを用いた透過型SPRセンサを試作し,その基本性能を評価した。すなわち,直径300nmのポリスチレンナノビーズを水と2-プロパノールの混合溶液に懸濁させ,これを半硬化状のPDMS基板上に滴下し,温度40℃,湿度97.3%の環境下で1日乾燥させることにより3次元ナノビーズ構造体を作製した。次に,作製した3次元構造体を水とエタノールの混合溶液に浸し,30分間超音波洗浄することにより2次元ナノビーズ構造体を作製した。この2次元ナノビーズ構造体上に金を50nmの厚さで蒸着し,透過型SPRセンサ用センサチップを作製した。センサチップを試料溶液に浸した後,白色光をセンサチップに垂直に照射し,その透過光をマルチチャンネルCCD分光器で検出した。水を試料としたとき,ビーズ構造体は赤色を呈し,640nm付近に吸収を示すSPR曲線が得られた。さらに,スクロース水溶液を試料としたとき,このSPR曲線はスクロース濃度の増加に伴って長波長側にシフトした。そこで,共鳴波長の変化量をスクロース濃度に対してプロットした検量線を作成したところ,良好な直線関係を示す検量線が得られた。以上のように,本年度は規則配列2次元ナノビーズ構造体を用いる透過型SPRセンサの開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度得られた結果をもとに構造体作製条件を詳細に検討した結果,ナノビーズが2次元に規則配列した構造体を作製することに成功した。また,SPRセンサの光学系を新規に開発し,作製したナノビーズ構造体を用いて透過型SPRによる測定を行うことに成功した。このように,本研究は当初の研究計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに試作した遠心力を利用する送液システムおよびSPR光学系の2次試作を行い,送液の安定性,感度,分解能,再現性などの性能向上をはかる。また,開発した透過型SPRセンサによるアルブミンや各種免疫グロブリンの測定について検討する。さらに,腫瘍マーカーや感染症マーカー,残留農薬等の多成分同時分析法を検討する。
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