微量元素の定量法にはICP、XPS、AAS、加速器質量分析法など、それぞれ優れた特徴を持つ分析法が存在する。しかし、試料の物理的状態(非破壊)、目的元素、必要な測定精度・測定時間等によっては、現存するいかなる測定法を用いても分析が出来ない場合もある。個々の検出法の改良によってある程度は検出限界・測定精度等が改善されてきてはいるが、農産物・考古学試料・隕石・高付加価値金属等の貴重試料、リサイクル製品中のトランプ元素等など、全く新しい分析法の開発によるブレークスルーが必要とされている。 即発ガンマ線分析においてはシグナル・バックグラウンドノイズ比(S/N)が最も重要であり、この値が分析法の性能を決定する。本研究開発においては2つの手法(ノイズ低減とシグナルの増強)によりS/N を改善させた新しい即発ガンマ線分析法を確立した。 1.多重度フィルターによるバックグラウンドノイズ低減:主なバックグラウンド源となる水素と他の元素で即発ガンマ線の多重度(1回の反応で放出されるガンマ線の本数)が異なることに着目し、多重度を測定してその相異から効率的にバックグラウンドノイズを低減した。 2.共鳴を用いたシグナルの増強(飛行時間法とパルス中性子による中性子エネルギー選択):殆どの核種において、その核反応断面積は、低エネルギー領域のエネルギーとともになだらかに変化する部分と、高エネルギー領域の共鳴(ある特定の狭い中性子エネルギー領域における2~6桁もの正の巨大値)が存在する。この共鳴の中性子エネルギーは核種毎に異なる。そこで、この共鳴の性質に着目し、特定の元素(核種)の共鳴エネルギーを飛行時間法とパルス中性子を用いることによって選別し、その元素の分析感度だけを選択的かつ飛躍的に向上させた。
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