二酸化炭素は、地球上に豊富に存在し、しかも毒性が低く安価な炭素資源であるため、その効率的な利用法の開発が積極的に試みられている。今回我々は、対応するアルデヒドより調製が容易で、かつ安定なN-Boc-α-アミドスルホンを基質とする二酸化炭素ガスとCsFを用いたα-アミノ酸のワンポット合成に成功した。本ワンポット反応は、1)CsFがN-Boc-α-アミドスルホンに作用し、系中でN-Boc-イミンが生成し、2)TMSSnBu_3とCsFから発生したトリブチルスズアニオンが、そのイミンに付加することでN-Boc-α-アミドスズを与え、3)CsFがさらにスズを活性化し生じたカルバニオン様の活性種が二酸化炭素に付加することで進行していると考えられる。副生成物としてN-Boc-α-アミドスズからの脱スズ化により生成したプロトン化体が若干ながら観測されているものの、芳香環に様々な置換基を導入したアリールグリシン誘導体、およびチオフェンやフランのようなヘテロ原子を含有したアミノ酸を、最高88%で合成することに成功した。本反応はイミンの形成、イミンへのスズアニオンの付加、二酸化炭素への付加の3工程がひとつのフラスコで順次進行しており、また、CsFがそれぞれの工程で異なる作用をしていることから(塩基、ケイ素の活性化、スズの活性化)反応機構的にも大変興味深い。現在光学活性なアミノ酸の合成に向けて精力的に研究を行っている。
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