二酸化炭素ガスは、ゆくゆくは枯渇する石油資源に代わる魅力的な炭素資源であるが、非常に安定な化合物であり有機合成への利用は限られていた。しかし最近になって、触媒的な二酸化炭素ガスの活性化、続く有機化合物への固定化反応が次々と報告され注目を集めている。そのような背景のもと、我々のグループも精力的に二酸化炭素の効率的な利用法の研究を行っており、すでにアミノスズからのフッ化セシウムを用いた二酸化炭素ガスによるカルボキシル化の開発に成功している。23年度はそのカルボキシル化の反応機構に関する知見を得るべく研究を開始した。まず、出発物質となるアミノスズの効率的な合成法の開発を行い、さまざまな置換様式のアミノスズの合成に成功した。合成したアミノスズを用いて置換基効果やNMR実験を行うことで、アミノスズの窒素原子の保護基がBoc基の場合はカルバニオン経由で、一方スルホニル基の場合は高配位スタネートを経由してカルボキシル化が進行していることを明らかにした。また光学活性なN-Boc-アミドスズを用いた場合には対応するアミノ酸がラセミ体で得られるのに対し、N-スルホニル-アミドスズを用いた場合には100℃という高温条件においても不斉転写を伴いカルボキシル化が進行することがわかった。また、アミノスズに代えて毒性の少ないアミノケイ素を用いても不斉転写を伴い、カルボキシル化が進行することを合わせて見い出している。通常イミンから光学活性なアミノ酸を合成する場合、不斉Strecker反応に続くシアノ基の加水分解が一般的な手法であるが、本発見はN-スルホニルイミンにケイ素アニオンをエナンチオ選択的に付加されることができれば、二酸化炭素ガス雰囲気下イミンから一挙に光学活性なアミノ酸が得られる可能性を秘めており、大変重要な発見である。
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