研究概要 |
従来の不斉有機触媒設計では、結合形成反応過程において強固な不斉反応場を構築することを目的に、動的自由度が小さく構造的に固い不斉源が用いられてきた。本研究では、鎖状触媒の動的構造変化により相補的な機能をアウトプットする不斉反応の実践を第一の研究課題として設定した。 まず、単一有機触媒を用いて逆の不斉空間を構築できることを示すために、触媒的エナンチオスイッチング反応の開発を行なった。その結果、N-Bocアルドイミンとマロン酸ジエステルと触媒的マンニッヒ型反応において、鎖状1,2-ジアミン骨格を有する触媒存在下、用いる溶媒を選択することで、エナンチオ選択性が顕著に逆転することを見出した。即ち、反応溶媒にトルエンを用いた場合イミンのSi面側からの求核付加反応が優先的に進行し、87~94%eeの不斉収率で対応する(S)-体が得られたのに対し、アセトニトリルを用いた場合ではRe面側からの求核付加反応が優先的に進行し、80~89%eeの不斉収率で(R)-体が得られることを見出した。メカニズム解析の結果、非極性溶媒ではエントロピー項(ΔΔS^‡)により立体選択性は制御されるのに対し、極性溶媒では、エンタルピー項(ΔΔH^‡)により立体選択性が制御されることも明らかにした(ACIE, 2010, 49, 9254.)。 これらの知見を更に発展させ、より構造自由度の高い1,3-ジアミン骨格を有する新規鎖状グアニジン/チオウレア有機触媒の開発研究にも取り組んだ。これまでに、フェノール類を求核剤として用いるニトロオレフィン類の触媒的不斉1,4-付加反応を開発することができた。この触媒システムでは、系の乱雑さ(ΔΔS^‡)により立体選択性が制御されることを見出した。これにより、幅広い温度範囲において最大のエナンチオ選択性を得ることが可能となった。これは従来報告されているエンタルピー項に依存した系とは異なるユニークな触媒システムである(ACIE, 2010, 49, 7299.)。
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