研究概要 |
近年,反応中間体としての"金カルベノイド中間体"と"金カチオン中間体"の性質の寄与について論争が繰り広げられている.申請者は,金カルベノイド中間体がsp^3 C-H結合挿入反応時において,逆重水素同位体効果を示す実験事実を既に見出している.本年度の研究では,1)Fischer型カルベン錯体からのカルベン移動反応を利用して,金カルベノイド錯体を合成し,この錯体の単結晶X線構造解を行うこと,2)単離された金カルベノイド錯体からのsp^3 C-H結合挿入反応を実施し,逆重水素同位体効果を示すC-H結合挿入段階におけるメカニズムの解明,ならびに金カルベノイド中間体の真の性質を追求することを目的とした.シクロオクチルリチウムとクロムヘキサカルボニルから,Fischer型クロムカルベン錯体を合成した.これに一価のカチオン性金錯体を反応させたところ,クロムと金間で金属交換反応が進行し,低収率ながら分子内シクロプロン化反応が進行した.この金属交換反応で生成する金カルベノイド中間体の単離精製,ならびにX線構造解析については現在進行中である.一方,分子内シクロパン化反応における重水素同位体効果について検討を行ったところ,k_H/k_Dがほぼ1の値を示したことから,本反応が速度論支配で進行している可能性を見出すことができた.しかしながら,生成物の収率が低いことから,より正確なデータを得るためにも基質や金触媒の配位子の検討をさらに実施していく必要がある。研究計画二年目の前半までに終了する予定である.さらに,アルキニルスルホキシドの転位反応を利用した金カルベノイドのsp^3 C-H結合挿入反応においても分子内シクロプロパン化反応が進行する新たな知見を得ることができた.
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