研究概要 |
金ビニリデン錯体形成を利用した炭素-炭素結合形成反応の開発を目指した。種々の金錯体を用いて,分子内にビニルエーテル骨格を有する1,4-エンイン化合物の分子内環化異性化反応を検討したが,金ビニリデン錯体形成を真の反応活性種とした生成物は得られなかった。そこで,金以外の遷移金属錯体を用いて,新たなアルキリデン金属錯体形成を鍵とする反応開発を行った。その結果,触媒量のパラジウム錯体とフッ化セシウム存在下,3-トリメチルシリル-1-アリルアセテート1とノルボルナジエンの反応を検討したところ,ノルボルナジエンのシクロプロパン化反応が立体選択的に進行することを見出した。本反応は,α-トリメチルシリル-σ-アリルパラジウム錯体形成後にアリルケイ素がパラジウム上へ分子内求核攻撃し,パラダシクロブテン中間体を経由して進行していると考えられる。即ち,ハード求核剤を用いた場合のTsuji-Trost反応の基本概念に基づく成果であるが,この概念を分子内反応に利用した報告例はなく,新規性の高い反応を開発すことが出来た。一方,ノルボルナジエン非存在下,パラジウム錯体の配位子として2,2'-ビピリジンを添加したところ,1の二量化反応が進行し,ヘキサトリエン誘導体が良好な収率で得られることも見出した。本反応は,α-トリメチルシリル-σ-アリルパラジウム錯体形成後に,パラジウム上のアセテートのカルボニル酸素が,ケイ素に分子内配位することによりシリル基を活性化し,シリル基がα脱離することによってパラジウムカルベノイドを生成していると考えている。このように本研究では,合成容易な基質1から,希な反応活性種であるパラダシクロブテンとパラジウムカルベノイドをそれぞれ発生させることに成功した。
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