光学活性環状エーテルは、生理活性天然化合物に基本骨格として広く存在する。エーテル結合のα位に様々な化学変換が可能なビニル基を有する環状アリルエーテルは、それらの合成にむけた重要中間体として注目される。ジオールを活性化する事なく脱水的に、求電子部や求核部の構造適用範囲も広く、高い収率かつエナンチオ選択性で環状エーテルへと変換できれば理想的であろう。前年度までに、ピリジンカルボン酸/CpRu触媒法を足がかりとして、ω-ヒドロキシアリルアルコールの脱水的な分子内環化反応触媒を探索した結果、6位に2-クロロナフチル基をもつ5-メチル-2-ピリジンカルボン酸系触媒が高い選択性を示すことを見いだした。この結果を基盤として、6-アリールピコリン酸を基礎骨格に設定し、アリール部に種々の置換基を有する20種を超えるピコリン酸配位子ライブラリーを構築し、反応性・選択性調査をおこなった。その結果、2位クロロ基が高反応性獲得に重要であること、クロロ基の代わりにメチル基を導入すると、活性は二桁低下し、エナンチオ面選択性が逆転することがわかった。フェニルにとすると反応は全く進行しない。本法は一般性が高く、基質のオレフィン上に置換基があってもよく、アルコール部は一級、三級、フェノールいずれも用いることができる。テトラヒドロピランやクマラン、テトラヒドロフランやクロマンを、定量的に、最大で>99:1のエナンチオマー比で合成できる。さらに、ビタミンEの合成原料となるクロマン型化合物や、アセトゲニン合成原料となるビスTHF化合物の合成にも適用し、本反応の有用性を示すことができた。核磁気共鳴実験および基質の置換基による標識実験から、本反応はπ-アリル錯体経由で進行すること、π-アリトル錯体の異性化を伴うこと、求核攻撃にはカルボキシラト部の水素結合が重要であることが予想される。
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