まず、ベンゾ[h]キノリンと塩化ベンゾイルを用いて、芳香族アシル基の導入反応について条件検討を行った。その結果、触媒としてRuCl_2(PPh_3)_3を用い、酸塩化物、炭酸カリウムをそれぞれ2.5当量、5当量加えた場合に高収率、高位置選択的にアシル基導入反応が進行することを見出した。塩化ベンゾイルとの反応では、収率95%で目的の10位アシル化生成物が単離できた。電子供与基を持つ塩化ベンゾイルを用いた反応でも、様々な基質において良好な収率で目的物が生成した。立体的に混み入りの大きい2-メチルベンゾイルクロリドを用いた場合にも目的のアシル化生成物が収率84%で得られた。パラ位に電子求引基であるトリフルオロメチル基をもつ酸塩化物では収率が63%に低下したが、20 mol%のトリフェニルボスフィンを添加することで、86%の収率で目的物を得ることができた。 アリールピリジン類と2-メチルベンゾイルクロリドとの反応でもオルト位選択的にアシル化反応が進行した。この反応では、酸塩化物、炭酸カリウムをそれぞれ1.2当量、2.4当量用いた場合に最も高収率で生成物を与えた。アリールピリジンとしては、トリフルオロフェニル基、フルオロ基、メチル基などをもつ基質において、中程度の収率で目的のアシル化生成物を単離できた。 これらの酸塩化物を用いた反応では、脱カルボニルを伴って生成したと考えられるアリール化生成物が少量ながら副生する。このアリール化生成物は、アシル化生成物の脱カルボニル化によって、あるいは反応中に直接基質より生成する可能性がある。そこで、本触媒系による2-メチルベンゾイル化反応を、ベンゾイル化生成物の存在下で行ったところ、このベンゾイル化生成物はほとんど失われることなく回収された。よって、脱カルボニルは触媒サイクル中で起こっていると考えられる。
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