研究概要 |
我々が対象にする環動高分子材料は、有機成分と無機成分の相対的な位置が変化しうる革新的な有機-無機ハイブリッド材料である。この材料は主鎖ポリマーにポリジメチルシロキサン(PDMS)、環状分子にγ-シクロデキストリン(γ-CD)を有する有機-無機ハイブリッドポリロタキサンを架橋することで得られるが、そのポリロタキサンの溶液中での振る舞い、特に環状分子の主鎖ポリマー上での分布や各成分の運動性を調査することは、架橋後に得られる材料の特性を予測あるいは制御する上で最も重要である。このハイブリッドポリロタキサンは水溶性のγ-CDと疎水性のPDMSがトポロジカルに結合しており、各成分に共通する良溶媒はないが、塩化リチウムを含むN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)にのみに溶解することがわかっている。この溶媒はγ-CDにとっては良溶媒であるがPDMSにとっては貧溶媒である。22年度は、このポリロタキサン溶液の準弾性光散乱を様々な濃度条件下で測定し、溶液を基板上にキャストした状態の走査型電子顕微鏡の観測結果と照らし合わせることで、直径が100~200nmの球状の凝集体が、0.005~1%という非常に広い濃度範囲で安定に存在していることが明らかとなった。また、Photon Factoryの溶液用小角散乱実験ステーション(BL-10C)で行ったX線散乱では明確な散乱は得られなかったものの、ポリロタキサンの重水素化DMF/LiCl溶液の中性子散乱の実験から、上記の球状凝集体よりも一桁ほどサイズの小さい何らかの構造体が共存することが示唆された。以上の実験結果を総合すると、このポリロタキサンはまず数十ナノメートルほどの小さな凝集構造を形成し、それらがさらに集まって100nm程度の大きな構造になることによってDMF/LiCl中で安定に分散していると考えられる。
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