研究概要 |
本年度は,昨年度にプレリミナリーな結果を得ていたキラル多座配位子配位子の機能について詳細に検討した.ノルボルナジエンの2位にブチレン鎖を導入し,さらにその先端部にキラルなフェニルエチルアミン部位を導入することで光学活性配位子を得,これをロジウム錯体とすることで対応するキラルロジウム触媒を合成した.またその類縁体としてアミン部位に代えてキラルなフェニルエチルアルコールに由来するエーテル部位を導入した配位子ならびにそのロジウム錯体を合成した.この二つの配位子は特定の一置換アセチレンモノマーの重合に高活性を示し,対応する光学活性ポリマーを与えた.得られたポリマーのCDスペクトルから,同モノマーから得られる片巻きらせん優先ポリマーの形成が確認された.これは,触媒量のキラル情報をらせんポリマーの巻き方向に反映するキラル増幅反応の一種であり,従来のキラル触媒に比べ使用する不斉化合物の量が少ない点において本系は特異的である.また,先述のアミン部位とエーテル部位を有するロジウム触媒の機能を比較すると,キラル部位の立体化学はアミン部位とエーテル部位で同一であるにも関わらず,生成したポリマーのらせんの巻き方向は逆転することが明らかとなった. これに関連して,ロジウム触媒によるらせんポリマー形成における重合度とらせん形成能の関係について詳細に検討した.らせんポリマーの重合度が上がるほどCDスペクトル上のシグナル強度は単調に増大するが,一定の重合度に達するとシグナル強度はそれ以上増大しないこと,すなわち上限が存在することを見出した.
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今後の研究の推進方策 |
今回の実績報告では,機能性の配位子の合成とその機能の詳細について明らかにすることが出来たが,得られたキラル配位子はその一部の部位のみ光学活性であり,全体としてはジアステレオマーのミクスチャーである.これを踏まえると,今後,配位子の機能をより向上させるためには次の2点が具体的な目的としてあげられる.先ず一つ目は,先述のジアステレオマーを分割する手法を開発することである.光学分割の手法で最も簡単なキラルカラムによる方法は既に試したが,良い結果は得られなかったため,配位子の一部構造を変換した上で同法により再度光学分割を試みる.もう一つは,架橋部位の接続部の位置を変え,立体化学的にジアステレオマーを消磁させないような分子設計を行う方法を開発することである.実際には橋頭位への架橋部位に接続を検討中である.
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