研究の最終年度として,本年度は昨年度に得られた結果のさらなる詳細部分についての検討および研究の総まとめを行った.ノルボルナジエンのオレフィニック炭素の一か所にブチレン鎖を導入し,さらにその先端部にキラルなフェニルエチルアミンおよびフェニルエチルエーテル部位を導入した配位子ならびにそのロジウム錯体の重合触媒としての特性について詳細に検討した.この2種類の触媒はキラル中心の立体が互いに一致しているにもかかわらず,配位部位となる窒素が酸素原子に置き換わることで生成する置換ポリアセチレンのらせん巻き方向が反転していることが明らかとなっている.反応機構としては,既報の論文からモノマーのアセチレン末端水素がプロトンとして引き抜かれ,これにより生じたアセチリドがアニオン性配位子としてRh金属中心にσ結合している活性種を生成していると推測される.このRh-炭素単結合にモノマーの三重結合部位が連続的に挿入することで重合が進行する機構がもっともリーズナブルと考えられる.その立証は,ポリマー末端の解析により可能となるが,本重合系では分子量の制御が難しく最終的には末端官能基に関する情報は残念ながら得られなかった. 一方,キラリティーを有しない配位子として,ノルボルナジエンのオレフィニック炭素の一か所に4-ジフェニルホスフィノ基あるいは4-ジフェニルアミノ基を導入したものを合成し,更にこれをRhに導入した数種の重合触媒を得,その重合挙動と反応機構に関する計算科学を行った.その結果によれば,先述のキラル配位子の系とほぼ同等の機構で重合が進行し,反応の主たる活性種は配位不飽和な14電子錯体である可能性が示された.
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