共役高分子のヘテロ界面におけるエネルギー・電子移動過程の詳細はその学術的重要性にも関わらず明らかになっていない。本研究では分子レベルで構造の明確なヘテロ界面を構築し、そこでの電荷分離と再結合ダイナミクスを高感度過渡吸収分光法により実時間で観測することで、界面における電子の振る舞いを明らかにすることを目的とする。 電子アクセプター(A)材料として熱架橋基を有するフラーレン誘導体を合成し、得られた不溶性フラーレン薄膜上に電子ドナー(D)材料である共役高分子薄膜を積層することで、界面構造の明確なD/A積層膜を構築した。この二層膜モデル系を用いてヘテロ界面での電荷生成・再結合機構の解明に取り組んだ。まずは、D材料である共役高分子膜中における励起子の拡散可能距離を評価した。共役高分子を種々の膜厚(9-71nm)で積層したD/A二層膜を構築し、共役高分子薄膜の蛍光消光率の膜厚依存性を一次元拡散モデルにより解析することで、励起子拡散長を11nmと決定することができた。次に、過渡吸収分光測定により界面電荷生成・再結合過程の実時間観測を試みた。ここでは、D/A二層膜を2枚張り合わせたA/D/A三層膜を新たに設計し、試料からの吸収信号強度(DOD)を増加させることで、過渡吸収分光測定を可能にした。過渡吸収スペクトルの結果より、共役高分子薄膜内に生成した励起子は100ps程度の時定数でA界面へ到達し、電荷を生成することが示された。界面での電荷生成反応自体は十分に速く、電荷生成の時定数は励起子の拡散過程に支配されていると考えられる。また、生成した電荷の一部は数十ナノ秒の寿命で再結合する様子が観測できた。このように、ヘテロ接合界面への励起子拡散や、界面電子移動の測定手法を確立することができた。
|