まず、大津らの方法によってポリフマル酸ジイソプロピル(PDiPF)をラジカル重合により合成し、分別沈殿法によって分別精製した試料を準備した。塩酸または水酸化ナトリウムを使ってPDiPF側鎖のイソプロピルエステル基を加水分解し、高電荷密度イオン性高分子であるポリフマル酸(PFA)を得ることを試みたが、残念ながら加水分解は進行せずPFAは得られなかった。PDiPFの側鎖エステル結合をカルボキシ基に変換させるために、PDiPFを求核試薬であるtrimethylsilyl iodldeやpotassium trimethylsilanolateと反応させる方法も試みたが、いずれの方法でもPFAは得られなかった。 そこで、同じく大津らの方法によってポリフマル酸ジ-tert-ブチル(PDtBF)を合成し、それを分別精製した試料を準備した。PDtBF試料を180℃で2時間加熱し、側鎖のtert-ブチルエステル基をカルボキシ基に変換させることにより、PFAを得ることに成功した。PFAの生成は^1H NMR測定によって確認した。 PFAの研究を進める上で必要となるPDtBFの分子物性に関する情報を得るために、分別精製したPDtBF試料について良溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)中30℃において、静的光散乱測定および粘度測定を行い、重量平均分子量、第二ビリアル係数、固有粘度を決定した。その結果を、以前に報告したPDiPFに対する結果と比較したところ、PDtBFはPDiPFと同様に、剛直な高分子であることを明らかにした。さらに、PDtBFはPDiPFに比べて側鎖置換基の嵩高さが高いために、剛直性がより大きくなっていることおよびTHFとの親和性が若干低くなっていることを示した。
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