本研究では、ポルフィリン外縁部に特徴的な連続した縮環構造を構築することにより、これまでになく深い内包空間を持つ新規な「お椀型ポルフィリン」の合成を目指して研究を展開している。このような縮環構造を有するポルフィリン類はいまだかつて合成されたことがなく、その電子状態や光物性は、従来のポルフィリンのそれらとは一線を画すことが期待される。 本年度は、ポルフィリンの外周部に導入したブロモ基を手がかりに、パラジウム触媒存在下でC-C結合を形成し、連続した縮環構造を構築した。その結果、ポルフィリンの外周に4つの5員環縮環構造を有するポルフィリン誘導体を得た。ここで得られた生成物は当初、狙っていたのとは異なり、平面性の分子であったが、縮環構造の影響によりメソ位のフェニル基がポルフィリン面に対して共平面となった結果、π共役系がこの方向に対して大きく拡張していた。このπ共役系の拡張のために、長波長に大きくシフトした従来のポルフィリンとはまったく異なる吸収スペクトルが得られた。 またメソ位フェニル基のオルト位に導入したアミノ基やカルボキシル基を、ポルフィリンのβ位に対して結合させて、4つの6員環縮環構造を持つポルフィリン誘導体を構築した。このときポルフィリン中心は、歪みは浅いながらもお椀型に曲がった構造をしていると考えられる。これらのポルフィリンの構造決定をMALDI-TOF-MSやNMRによって行った。また吸収スペクトルでは、縮環の効果により、短波長シフトしたSoret帯と長波長シフトしたQ帯を観察した。
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