キラル化合物は、医薬品などの合成中間体として需要が高まっているが、従来の光学分割法によってキラル化合物を得る場合、どのキラルホスト分子が最適であるかは試行錯誤的な選択に頼らざるをえない。キラルホスト分子の化学合成の必要性を除くために、二種の化合物で形成される超分子キラルホストを用いると、その組み合わせによって容易にキラルホストの性能の改変が可能である。本研究では安価な不斉源である酒石酸および天然アミノ酸に着目し、これらの誘導体を用いた超分子キラルホストを開発し、中性化合物の光学分割を行うことを目的としている。本年度は実施計画に従い、N-ベンゾイル-L-アスパラギン酸(1a)およびL-ジベンゾイル酒石酸(2)をキラルジカルボン酸として用い、これらとアキラルジアミンとの共結晶によるアルコールの包接および光学分割を試みた。1aを用いた場合には1-フェニルエタノール(3)の包接を行うことはできなかったが、置換基の検討の結果、芳香環を拡張したN-(2-ナフトイル)-L-アスパラギン酸(1b)を用いることによって3の包接に成功し、88%eeという高純度で3の光学分割に成功した。またX線構造解析によって、効率的な3の包接には2つの水素結合が寄与していることがわかった。一方、2を用いた場合にも芳香族アルコール3の包接は確認されたが、収率、純度の両方で高い値を示す系は見いだせなかった。そこで、より小さなアルコールである2-ブタノール(4a)を対象化合物としたところ、4aが効率的に包接され、75%eeという純度での光学分割に成功した。さらに2-ペンタノール(4b)も79%eeという高い純度で得ることができた。得られた包接結晶のX線構造解析によって、水分子を伴った三次元水素結合ネットワーク構造が形成されていることがわかった。これが、一般に光学分割が困難である4の分割を可能にしたと考えられる。
|