キラル化合物は、医薬品などの合成中間体として需要が高まっているが、従来の光学分割法によってキラル化合物を得る場合、どのキラルホスト分子が最適であるかは試行錯誤的な選択に頼らざるをえないのが現状である。本研究では安価な不斉源である酒石酸および天然アミノ酸に着目し、これらの誘導体を用いたチューニング可能な超分子キラルホストを開発し、中性化合物の光学分割を行うことを目的としている。前年度までに、L-ジベンゾイル酒石酸(1a)およびN-(2-ナフトイル)-L-アスパラギン酸(2a)をキラルジカルボン酸として用い、これらとアキラルジアミンとの共結晶によるアルコールの包接および光学分割に成功した。本年度は、1aおよび2aの分子構造を検討することによって、その分割効率および汎用性の向上を目指した。種々のキラルジカルボン酸を合成し、その性能を調査した結果、1aの芳香環上にメチル基を導入したL-ジトルオイル酒石酸(1b)や、2aのアルキル鎖を伸長したN-(2-ナフトイル)-L-グルタミン酸(2b)では光学分割の効率は大きく低下してしまうことがわかった。一方、2aの芳香環を拡張したN-(6-メトキシ-2-ナフトイル)-L-アスパラギン酸(2c)を用いることによって、1-フェニルエタノール類(3)の包接に成功し、最大で98%eeという高純度での3の光学分割に成功した。単結晶X線構1造解析によって、包接結晶中ではカルボン酸(2a)とジアミンが二次元シート状水素結合ネットワークを形成しており、効率的な3の包接には2つの水素結合が寄与していることがわかった。また、カルボン酸を2aから2cに変え、分子長を長くすることによって、隣接するシート間の距離が拡大し、高い不斉識別能の発現につながったと考えられる。
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