ナノスケールにおける光物理過程、特に励起状態ダイナミクスは、光電子デバイスなどをデザインする際にキーとなる因子である。しかしながら、光物理過程の計測をナノメーターの空間分解能で行うことはこれまで不可能であった。そこで本研究では、単一分子計測法を応用した超解像イメージング法を適用することによって、ナノスケールで、励起状態ダイナミクスを直接可視化することを目指した。昨年度までに構築した超解像イメージング法を用いることによって、共役蛍光分子の発光サイトの位置マッピングと分子鎖構造の計測を行い、これらの結果を基に励起子移動・局在化のモデル(ドメインサイズリミッテドモデルとチェーンサイズリミテッドモデル)を提案した。前者のモデルが適用できる場合、分子鎖内で励起子広がりが起こるドメインサイズは10nm程度であることが示唆された。一方、後者のモデルでは、励起子は最大70nm程度まで分子鎖上で広がりを持つことが示唆された。共役蛍光分子において励起子が広がるサイズはこれまで議論が分かれるところであったが、本研究によって、初めてそのサイズを直接的に測定することに成功した。さらに励起子移動と分子鎖形状にも相関があることが明らかとなり、これらの結果は、共役蛍光分子を用いた光電子デバイスを実際に設計する場合に必要となる基礎的かつ本質的な知見といえる。さらに、近年太陽電池や白色LEDなどへの応用が図られている電荷移動型共役系高分子についても単一分子計測による研究を行い、共役系高分子の共役セグメント内での分子のねじれ構造が分子鎖全体の光物理的性質(発光スペクトル、発光寿命、光吸収効率)を決定する因子であることを明らかとした。これまでは、主に共役セグメント間の相互作用が分子鎖の光物理的特性を決定していると考えられていたので、本研究での発見は電荷移動型共役系高分子をデザインするための新たな指針となったといえる。
|