研究概要 |
これまでの研究で、tetraphenylethene(TAE)誘導体の電気化学測定において、1段階2電子移動する有機化合物について、1,2-bis(4-methoxyphenyl)1,2-bis(4-dimethylaminophenyl)-ethene(MAE)が最適な分子構造であることが分かった。(1)MAEをπ共役を介して結合した高分子(2)MAEをアルカンを介して結合した高分子について検討した。 (1)について、昨年度の検討より、1段階2電子移動サイト間の相互作用が強いため、最初の2電子移動だけ、1段階で進行し、3電子目移行の移動は、段階的に生起することが判明した。 (2)について、MAE2量体、3量体からなるオリゴマーのアセトニトリル溶液中の電気化学測定を行った。拡散律速の電流であることを確認したが、拡散定数が、分子模型の大きさからの見積もりに対して、10倍程度小さいという問題が解決できず、現在原因を探っている。電流値の立ち上がりからNemstの式を用いて電子移動数nを計算すると、それぞれ、2.1,2.2となり、MAEユニット間の相互作用が無く、それぞれ独立して1段階2電子移動することが分かった。分子量約5000の高分子を合成し、膜の電気化学測定を行った。1電子移動に対して応答性の鋭い良い酸化還元ピークを0V付近に1つ示した。酸化還元ピーク電位差は、10mVと小さく、ピークの半値幅から求めた電子移動数nは1.4となった。分光電気化学測定においても、酸化還元サイクルを増やしたり、過電圧を加えたりしても、高分子は安定で、良好な電気化学応答性が持続した。 1段階2電子移動分子を高分子化するためには、ユニット間の相互作用を考慮して、アルカンを介した結合が最適であり、1段階で複数の2電子移動を生起する分子が実現出来ることが分かった。
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